☆プロローグ☆
私は立ち尽くしていた。
別に恋人の浮気現場を目撃したわけでも、ましてやなんの意味も無しにこんな路地裏に好きで棒立ちになってるわけではない。
目の前にある扉が果たして目的のお店のものなのか確証がもてなかったのである。
駒澤大学駅からテラス席のあるマクドナルドを横目に地上に上がってすぐのところ。地図でお店が記されている場所に行ってみる。
夜の帳に爛々と輝くカプリチョーザの看板の手前に小さな看板が。
そこには今回の目的のお店「ピキーヌ」の文字が。
これはなかなか初見でみつけるのは難しいな。と思いながらひとつ路地に入る。
すると目の前にはダーツバーの看板が。
私はタイカレーがたべたいのであってお洒落な大人の娯楽を楽しみたいわけではない。
元に戻って別の道を行くも、魚料理の居酒屋さんで行き止まり。
もしかしてこれはタイカレーの神様の警告か?
とわけのわからないことを考えながら同じところを二、三往復して私は一つの答えにたどり着いた。
先程のダーツバーの超えた先にそれっぽいお店っぽい扉っぽいものが「ピキーヌ」への入り口なのではないか?
となって今ここで2分ほど立ち尽くしていたというわけだ。
冷静になってその扉をよくみてみると食べログカレー100選みたいなステッカーが貼ってあったので半信半疑がめでたく全信になったところでお店の扉を開く。
扉の向こうはほのかなエスニックの香り。
なんかたまにある鶏小屋みたいな匂いのする本格的なタイカレー屋とは違い、ちゃんと日本のカレー屋の匂いがする。まずは一安心。
気前の良さそうなおば様に席を案内され、私は入り口に一番近いカウンター席に座る。
本来私はエスニック料理が得意ではないが、こちらのタイカレーは癖が少なく食べやすいと口コミが多かった。
だからこのお店にきたのに私はその気前の良さそうなおば様に
ご注文は?
と聞かれてグリーンカレーでもなく、レッドカレーでもなく秒速五センチメートルでチキンカレーをオーダーした。
まさにチキンとはこのことでタイカレー屋で、しかもかなり食べやすい方だといわれているのにも関わらず欧風カレー屋のレギュラーメニューであるチキンカレーをオーダー。
だがそんな臆病な私のことをタイカレーの神様は許してくれなかった。
「これめちゃくちゃ辛いけど大丈夫?」
おば様は確かにそう行った。
「え、けっこう辛いですか?」
一応確認。
「けっこう辛いよ!だいたい8割の人は辛くて食べれなくて睨んで帰っていくね!」
いや、ダメじゃん。
そんなん俺食えるわけないじゃん。
「辛いの得意?」
「いや、まぁ好きですけど得意と言われたらそうでもないかも、、です」
正直に伝える。
「あー!ダメダメ!やめといたほうがいいよ!」
まじか。頭が真っ白になる。
完全にチキンカレー一択だった。
藁にもすがりつく思いで目の前のメニュー表を読み込む。
レッドカレー!これ見た目いけそう!どんなカレーなの!説明を読む。
「こんなにさりげなく、傍にいてくれるタイカレーは他にはないですよ」
なんやねんその説明!全然味わからんやんけ!しばらく恋人がいない俺への当てつけかい?クソぉおぉ、、
怒り心頭。
そんな変な被害妄想で真っ白になった頭を抱えていた私を見兼ねたおば様が
「アロイおススメだけどそれにする?」
と尋ねてくれた。一筋の光。
「今日のアロイはカレーの炊き込みご飯みたいなやつだよ!全然辛くないから大丈夫!」
朗報である。
私はついに生涯をともにするパートナーをみつけたのだ。
「、、アロイをお願いします」
私の中では一世一代のプロポーズばりに気合の入ったそのオーダーが通る頃には隣で同じタイミングで入ってきてた常連っぽい兄ちゃんがグリーンサラダを2皿完食してメインのタイカレーの到着を悠々と待っている。
常連さんとの差をピリピリと感じながら待っていると程なくしてカレー風炊き込みご飯が到着した。
頭が真っ白にだった私がメニュー名を忘れてしまったことをどうか許していただきたい、、。
★味の感想★
本日のアロイ(店頭の看板にはカオマンガイと記載) 1000円
私が食べたかったのとだいぶ違うがまずは一口。
まぁ、シンプルなカレーピラフだなー
と思ったのも束の間。
後から来るスパイシーな香りと旨味がグッとくる!
うわー!カレー食べてー!
これ絶対カレーうまいんだろうなー!と思いながらスプーンをすすめる。
お米はかなりしっとりしていて見た目は若干炒飯のような感じがするが、ちゃんと炊き込みご飯みたいにしっとりしている。
炊き込んでるせいか旨味がじんわりと広がり、この旨さを形容できないのが悔しいが、かなり美味しいやつだということは間違いない。
特に豆とキノコ(マッシュルーム?)がかなりいい仕事をしている。豆の少しの香ばしさとキノコの薫りがなんとも言えない相乗効果を生み出す。
トマトも地味に美味い。
ほのかに甘みがあるタイプでトマト苦手な私でも食べれたことからも美味しさがわかってもらえると思う。
そしてこの骨つきチキン!
こーれが美味い!
味はがっつり濃いめというわけではなくスパイスとガーリックが中心のスパイシーチキン!
これをそのままいくも良し!ご飯といくも良し!
ますますチキンカレーが食べたくなってきた、、
おっと。ものすごい邪念が。
そんな邪念を振り払うべくアロイ専用のナンプラーを瓶から取り出す。
どうやらナンプラーに青唐辛子が漬け込んであるみたい。
早速つけて食べてみる。
結果から言うと鬼みたいに辛い。
中本の北極みたいな辛さ。舌が痛い。
ただこのナンプラーが味に奥行きを加えてくれます!
結局最後の5.6口はナンプラーをかけてヒーヒー言いながら完食しました!
とても美味しかったです!
ごちそうさまでした!
☆エピローグ☆
私が痺れる口内を冷ますべくお冷やをゆっくり口全体を冷やすように飲んでいると、おば様がなにやら仲間になりたそうな目でこちらを見つめている。
気になったのでそちらに顔を向けると
「ナンプラー入れた?」
と聞かれた。別に旅のお供になりたいわけではなかったようだ。
「入れました!辛かったです。」
正直に伝える。
するとおば様が
「だろうね!でもその程度で辛いって言ってたらチキンカレーは食べれないよ?笑」
と言いたそうなニヤニヤ顔をしていた。そのまま僕に対する返答もなく、別のお客さんの会計に行ってしまった。
なかなか手厳しい洗礼を受けた私だが次回来るときは是非チキンカレーにチャレンジしようと思う。
今度おば様の驚く顔が見れるように鍛えておこう。
まぁ、鍛え方なんてあるのか知らないんですけどね、、。笑